阿波美アワビ図鑑・田井の浜日記:徳島県美波町

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【エッセイ】 あの頃、海と“イノチ”の記憶

由岐港

【エッセイ】(幼少期、由岐小学校時代)


 
あの頃、海とイノチの記憶

 

 海が好きなのだ! 海こそ僕の故郷だから……それは四国の右下、漁師町……合併で、今は美波町(みなみちょう)という名になった過疎の町。甘い記憶に、ほろ苦い記憶、少年期の栄光と挫折の眠る町。

 

 七歳の頃の記憶。生家の二階から海が見える。すぐ前を通っている橋の周りがまだ舗装されていなかった頃、土手づたいに下まで降りると潮干狩りができた。バケツ抱えて、砂利遊びをする。しじみはタダで採れる。ばあちゃんに渡すと翌朝、みそ汁の具になった。採ったものが食卓に乗る不思議な感覚。子どもながらに、自給自足の初体験。岩浜に行くと、野生のヒトデやウニがいる。しかし、ウニには手を出せなかった……触ると痛そうに思えたので……浅瀬には名も知らぬおサカナさんたちが泳いでいる。それが、幼年期の水族館そのものだった。今でも唯一、都会で昔の記憶と再会できる場所は、水族館しかない。

 

 十歳の頃の記憶。友達から聞いた噂。海から少し山中に入った場所に、おがくずが大量に溜まっている場所がある。カブトムシの幼虫をたくさん捕まえられる場所らしい。水槽を持っていき、大量に土と幼虫を持ち帰る。成長を待ちわびながら、たまに掘りおこして観察する。やがてサナギになり、成虫になる。一体だけ誤ってサナギのツノの部分を傷つけてしまった。それ以外のサナギは全て、かっこいいツノのカブトムシになったが、一体だけ残念ながら奇形のツノのカブトムシになった。なんたる失態、子どもながらに大ショックだった。それ以来、怖くなって幼虫を育てられなくなった。すべてが自然の学びだった。都会に持っていけば売れるものも、自然に捕まえれば全てタダだ。親戚の家の夕食が、食用ガエルの鍋だった時がある。トノサマガエルと遊ぶのが大好きだった僕は、カエルの鍋は食べられなかった。実家の近くに養豚場があり、金網ごしに啼いているブタを眺めているのも好きだった。魚も豚肉も全く食べる事ができなかった。親からは偏食だと思われていたが、生きている時の姿を想像してしまうから、子どもの頃の僕は、食べる事ができなかったのかもしれない。

 

 今では魚も豚も食べている。しかし、大人の皮を被って長く暮らしているうちに、子どもの頃のピュアな感覚の大半を失ってしまっているような気がしてならないのだ。大人になるという事の全てが、いい事ばかりであるとは限らない。失くしてしまった感覚を取り戻せるのかどうか? 今度海を見に行った時に試してみたいと願っている。それは、何故か? やっぱり僕は海(シー)が好きだと思うから。いつまでもピュアな感覚を失わないでいる事、それが詩人にとって一番大切な事だと思うから。